HOMEHOME CLAPCLAP

檻の中のカラスと孔雀

番外編② アルノリトの日記

 日記を書いた方が、字の勉強になるんだって。
 キールがそう言ってたから、内緒で日記を書いてみるよ。
 キールが気付かない間にぼくが読み書ききちんとできるようになったら、びっくりするかな。たくさん褒めてもらえるかも。
 でも今日は、そんなに書くことがないから、いろんなことを思い出しながら書いてみる。たくさん字を書くのはむずかしいね。時間かかって、てが疲れちゃうよ。

〇月〇日
多分、キールが来たのはこの日。確か、すごく雨が降ってた。
びしょびしょでお屋敷を訪ねて来たんだよね。
前の人が急にいなくなってから、二日くらいたってた。
あの人は帰ってくるのか、どうしたのかすごく怖かったから、あの人でなくても、誰かがきてくれただけで、ぼくは凄くうれしかった。
前の人は、ぼくと目も合わせてくれなかったし、ぼくがいないように振舞うこともあったし、本当に見えていないのかなって思うこともあった。
でもキールは、僕の顔を見ながら挨拶してくれた。
だからぼくは、今度は嫌われたくないって思って、一生懸命いい子にしてようって思ったんだよ。ずっときんちょうして喋ってたから、毎日ちょっと疲れちゃったけど。
キールは、あのときどう思ってたのかな。やっぱりきんちょうしてたのかな。
なかなかあの頃の事聞いても、教えてくれないんだよね。

〇月×日
マキーラが来た日の事は、よく覚えてる。窓の外の、おおきな杉の木のてっぺんにいた。
森の小鳥たちが怖がって、あちこち逃げ惑っていた。マキーラ、大きいもんね。
怖い顔していたけど、ただ他の子たちをいじめていたわけじゃなかったし、なんだか疲れた顔もしてた。
迷子なのかと思って声をかけたら、マキーラは逃げなくて、僕の話をだまって聞いてくれた。
マキーラには大事な人がいたけど、悪い人に連れ去られちゃって、追いかけて来たんだって。今はすぐそばにいるのに、助けてあげることができないから悔しいって。
あんな大きくて強そうな子が、ずっとそう悲しんでいた。
ぼくがたすけてあげるのを手伝おうかって言ったら、マキーラは「たすけてくれるならなんでもする」って言う。
なんでもって言われても、どうしたらいいのかわからなかったから、ぼくは「友達になって」って言ったんだよ。
マキーラの大事な人が、鷹じゃなくて人だったって知ったのは、もうちょっと後なんだけど。

〇月▽日
テオドールを助けに行くときは、大変だった。
場所はマキーラが教えてくれたんだけど、ぼくはお外出られないし。キールにお願いしようとしたんだけど、やだって冷たかった。
近くにいる間に迎えに行かなきゃならないから、一生懸命お願いしたら、キールも最後は連れてってくれたけど。
市場には、本当にいろんなものが売ってるんだけど、ときどき人も売ってるんだって。その人を助けるためには、お金がいるって。
その話になったとき、キールは凄く嫌な顔をしてたし、怒ってたのか、なんだか無口で怖かった。
だから嫌われたかなって怖かったけど、マキーラとの約束は守りたかったし。
こんなことするのはこれっきりだよっていうのが、キールとの約束。
でもぼくは、キールがなんであんなに嫌そうだったのか、まだよくわからないよ。人を助けることはいいことなんじゃないのかな?
あと市場のことは、テオドールにも聞いちゃ駄目って言われてるの。

〇月□日
テオドールとは、会ったその日からいろいろお話した。
一緒にお留守番したし、お掃除も一緒にしたね。
すっごく優しいんだよってマキーラが言ってたけど、会ってみたら、想像してたのとちょっと違った。
でも一緒に遊んでくれるし、抱っこしてくれるし、本当に優しい。いろいろふあんなときに抱っこしてもらうと、落ち着くの。
テオドールは無理やり悪い人に連れてこられただけだから、多分早く帰りたいんだと思うけど、ぼくはできれば一緒にいたいなぁ。
でもずっと一緒にいたいって言うの、わがままってキールに怒られちゃうかな? 

 最初はキールとテオドールはあまり仲良しじゃなかったみたいで、お互いに怖い顔していることが多かった。
 でもだんだん二人でお話ししていることが増えてきて、キールも笑って話しているところを見るし、テオドールも怖い顔していないから、今は二人とも、仲良しなんだと思う。僕が寝た後とかも、二人で遅くまでよくお話ししているよ。交じりたいけど眠たい。マキーラに言ったら、大人は大人だけの時間もいるんだって。ぼくだけ子供で、なんだかみんなずるいな。

 最近はいろんな人と会ったけど、ぼくはやっぱり、この二人とマキーラが好き。
 だから、思うの。みんながいじめられたら、ぼくが守ってあげるの。ぼくはこのお屋敷のご当主だから、ここで暮らすみんなを守ってあげなきゃいけないの。
 ぼくがどうして他の人と違うのか、誰も教えてくれないけど。

 でも、そういうことを知るより、みんながいなくなる方がずっと怖いって、最近は思うからね。

   
(終)