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町に出る鬼

10 言葉として(終)


定信は利秋の屋敷で、ひたすら皿を洗っていた。
部屋の掃除は終わったし、庭の掃除も終わった。
洗濯もして布団も干した。
今なら主婦にも勝てるという謎の自信を持ちながら、黙々と作業をしていた。

「…なぁ、定信」

その様子を見て、珍しく縁側でぼんやりとしている利秋が呆れた様子で声をかける。
「使ってない皿まで洗い直す事ないだろうよ…」
「…やる事がなくて」
そう言いながら、定信は皿を拭く。
とにかく何かしていたかった。
だからと言って外へ出る気にもならず、利秋のようにぼけっとしている気にもならない。

「景伊が自分で行くって言ったんだ。…義成も悪い様にはしないと思うんだが」

利秋の言葉に、定信は一瞬手を止める。
しかしまた、がしがしと鍋を洗い始めた。
そんな定信の様子を見て、利秋は苦笑いしている。
「…そういえばな。太助への謝礼金10両、義成が払ったんだぜ」
謝礼金。その言葉に、定信の手が止まる。
太助が同行するかわりに払えと言っていた金は10両。大金だった。
「…あいつが?」
定信は驚いて、利秋の顔を振り返る。
「あいつが全額払うからって。俺んとこにも景伊の治療費とか払うからって言ってきたけど、それは断った。まぁ、真面目な男なんだろうね」
「…」
定信は鍋を拭き終ると、座敷の上がり戸へ腰掛けた。
たすきを解いて、定信も庭を眺める。

今、この屋敷に景伊の姿はない。


あの村から屋敷へ帰りついたのは、3日ほど前の事だ。
利秋と太助は意気投合したらしく、あれこれよく話をしていたが、こちらは息もつまる思いだったのを覚えている。

義成も景伊も、お互いを見ようとしなかった。
口だって聞かなかった。
義成もあの山で自分たちの言う「アレ」を見て、真相を理解していると思う。
己の過ちを認めない男ではないと思うが、罪悪感と「自分が殺した」と思っていた弟を目の前にして、気まずさがないわけがないだろう。
景伊も本来は素直だが、この件に関しては頑なだった。
元々あの兄に絶大の信頼を寄せていたのだろうというのは、言葉の端々から感じる事ができたし、彼にとっては受けた肉体の傷よりも「兄も結局、自分を疎んでいた」という思いに対しての傷の方が強いようであった。

兄と話をしたい、と言った景伊の言葉に嘘はなかったと思う。
しかし心の準備もできず、目覚めれば兄がいた。
その状況に混乱していたのだと思う。

義成も景伊を気にしている様子ではあったが、自分から声をかける事はなかった。

定信も、何度か口を挟みかけた。

…お前ら、話したいんじゃなかったのかよ。

何度そう言いかけたのかわからない。
だがすっかり青い顔をしていた景伊の顔を見れば、そんな事は言えなかった。
ただ、景伊の腕を引いて、山を降りた。


景伊は帰ってから、しばらく一人でずっと何かを考えているようだった。
いろいろな事があった。…この少年を取り巻く様々な出来事が一気に動いた。
わかった事、わからない事も全て。
話しかけてもどこかうわの空で、心ここにあらずといった具合だった。

それが突然、何かを決意したように話がある、と言ってきたのは、昨日の夜の事だった。

…明日、長棟の家に行ってくる、と少年は言った。

それには定信も利秋も驚いて、行くなら共に行こうかと言ったが、景伊は首を横に振った。
「…一人で行かなくては、意味がないんです」
少年は淡々と答える。心の内は、すでに決まっているようだった。
「でも、お前…」
一人でなんて行かせたくなかった。彼らを二人にする事が怖かった。
定信はそう思ったが、景伊は「それでも」と言う。

「俺は、他の誰かがいたら甘えてしまうから。…いつまでも守られてる、助けてもらってる。それじゃ駄目だと思うから」

あの人に助けてもらった礼も伝えてないし。少年はそう言って、定信を見上げた。
心配そうな顔をする定信に対し、景伊は少し困ったような、苦笑いを浮かべている。
「…そんな顔しないでほしい。別にあの人のところへ、死にに行くわけじゃないんだから」
「…似たようなもんだろうが。だってお前」
「あの人は、理由もなく人を傷つける人じゃないよ。俺が憎ければ別だろうけど」
「だから!」
「そのときは、逃げる。…駄目だったら、帰ってくるから」
その言葉に、それまで話を聞いていた利秋はふぅ、とため息をついた。…笑っている。
「別に駄目でなくても帰ってきていいぞ?お前あまり食わんし、もう一人居候が増えたところで大した事ないからな、俺は」
「…はい」
利秋の言葉に、景伊は笑って答えた。

いい笑顔だったと思う。多分、出会ってから今までで、最高の。
だから、行かせてしまった。
あの少年の決意もわかったから。

(いつまでも、守られてる、助けてもらってる。それじゃ駄目だと思うから)

そう言ったあの子供は今、自分の足で立とうとしている。




「…義成様」
長棟の屋敷にいた義成は、使用人が声をひそめて自分を呼ぶのに気が付いて、顔を上げた。
先日地図を探す為に自分でひっくり返した本棚の整理をしている所だった。
「義成様に会いたいと、あの子供が」
自分に会いたいという子供。その言葉で義成は今、誰が来ているのか理解した。



景伊は大きな門の前で、一人待っていた。
白壁で周囲をぐるりと囲まれた屋敷。
本宅の黒い屋根と蔵。庭にある大きな松の木が見える
こうしてこの家を外から眺めるのはあまりない事だった。
多分こんな気持ちで屋敷を眺めたのは、初めてこの家の門をくぐった時以来だろう。
父親を名乗る男に連れられて、この白壁の続く武家屋敷を見上げていた。

…改めて見上げて、大きな家だと思う。こんなに大きな家だったのか、とも思う。

自分が見ていた世界は、狭い離れの家の、あの空間だけだった。
そこで朝から晩まで過ごして、たまにあの人が相手をしてくれて。
いい思い出ばかりではなく、思い出したくない事も、あの事件以外にいろいろある。
どちらかと言えば、大半はそちらの嫌な思い出だ。
それでも人生の半分近くをこの家で過ごしたのだ。愛着とは違うが、複雑な気持ちが心のうちに湧きあがる。

…大嫌いだと思っていた。
だがこうして家の前に立つと、自分を閉じ込めてでも家の面子を守ろうとした人間の気持ちも、今なら少しわかるような気がしてきた。


ガタンと音がして門が開く。
門が開いて現れた男に、景伊は驚いて目を見開いた。
「…兄上」
兄が、この家の当主がわざわざ門を開けて、自分を迎えるとは。
景伊は義成に深々と頭を下げる。
「…頭なんて下げなくていい」
頭上で聞こえた声は、怒りも何もなかった。歓迎の色もなかった。
ただ、淡々としていた気がする。

恐怖がないわけではなかった。
彼の腰には、あのとき自分を斬った刀もある。
震えそうになる体を制して、景伊は言葉を紡ぐ。
「…貴方と、話がしたくて」
そう言って見上げた兄の目には、過去に自分に向けてくれた優しさや親しみは全くなかった。
氷のような目をしている、と景伊は思う。
こんな目をした男だったろうか。…自分はもう完全に、拒絶されているのだろうか。
「…上がってくれ」
「え」
義成の言葉に、景伊は思わず聞き返してしまった。
「お前もこの家の子だろう。遠慮するな」
義成はそう言うと、景伊に背を向ける。
…入っていい、と言う事だろうか。
景伊は恐る恐る、兄の背について行く。

二ヶ月ぶりに足を踏み入れた玄関も庭も、あのときの起こった凄惨な現場の様子は感じられない。
綺麗なものだった。
庭の茂みでは雀たちが餌を探したり、砂浴びをしている。

「…どこへ行きたい?」
義成が後ろの景伊を振り向いて言う。
「お前が落ちつけるところで話そう」
そう言われて、景伊は周囲を見渡す。
落ちつけるところ、と言われても、景伊にとってこの家はどこにいたって、落ち着けるところなんてないのだ。
密かに物陰から、使用人たちのちらちらとした視線を感じる。
古くからいる者達なら、景伊の事も知っているだろう。
居辛さが身を包む。

義成はそんな景伊の姿を見ると、「おいで」と手招きした。
彼の行こうとしているのは、本宅。
自分はほとんど入った事がない。あの事件があったときが初めてだったような気もする。
入ってはならない、と小さな頃から言われ続けていたから、自分がそこに行く事はタブーな気がして足が進まなかった。
「…兄上」
「いい。俺がいいと言うんだ」
景伊にそのタブーを課した人々は、もういない。
義成はそれだけ言うと、そのまま歩きだす。景伊も戸惑いながら後を追った。


案内されたのは、兄の自室だった。
当然ながら兄の部屋に来るのは初めてだ。余計は物は何もない、よく片付けられた部屋だった。
庭に面した部屋で、景伊は義成に促されて、座る。
障子を閉められ、外の空間と閉ざされた畳の部屋で。
景伊は義成と対面で座る。
兄とこうして畏まって接した事はなくて、景伊はどうしたらいいのかわからなくなる。
「…あの」
「固くなる必要はない。…体はもういいのか」
「…はい」
頷いて、景伊は俯く。
2か月前の事を聞いているのか、3日前の山での事を言っているのか、景伊にはわからなかった。
それからしばらく沈黙が続く。
何を話すべきか。
自分も戸惑っているが、兄もそうなのだろう。
昔のようにうまく話ができない。
昔はどうしてあんなに自然に話が出来ていたのか、今は全く思い出せない。たった2ヶ月前の事なのに。

視線を上げて、兄の顔を見てみた。
少しやつれた気もする。

「…痛かっただろう」

少し視線を落とし気味に景伊に向けて呟く義成の声は、苦しそうだった。毒物でも飲んだ後のような声だった。

そこで初めて、兄の言葉が、己が与えた傷に対してのものだったのだと気づく。

景伊は首を縦に振るべきか横に振るべきか、悩んだ。
兄の事を責めるつもりもないし、責める事もできないと思っていた。恨みをぶつけるつもりで来たわけではない。
どうして。
なんで。
あの直後は、そんな思いでいっぱいだった。

でも、この人は優しい。
全てを知って苦しんでいるだろう。

兄も本当に「見た」し。
自分も本当に「やっていない」のだ。


「…貴方に、ずっと聞きたい事があったんです」

景伊の小さな声に、義成の視線が動く。
「俺がこの屋敷に来たとき。皆驚いていて、俺を避けていた。でも貴方だけは俺の相手をしてくれていた。…何で、ですか?」

7歳の頃母が死に、突然父を名乗る男に引き取られた。
連れて来られたのは、この大きな家。
何も知らないまま連れて来られ、自分の顔を見た人々は誰もが顔をしかめた。
わけがわからないまま、本宅から少し離れた別棟の小部屋にいるように言われた。
父、と名乗る男もそれ以来姿を見せない。
不安で仕方なくて、外を覗こうにも食事が運ばれてくるとき以外は外から鍵が掛けられていて、離れから出る事もできなかった。膝を抱えて、ただ時間が過ぎていくのを待つ日々。
そんなときだったと思う。
食事の時間でもないのに、外で物音がして戸が開いた。

そのとき現れた若い男が自分の兄にあたる男だとは、そのとき知る由もなかった。
何を話したかは今はもう忘れてしまったが、少し談笑をして、それからはこまめに様子を見に来てくれていた気がする。
兄はいろいろ知っていて、暇だろうと何冊か本をくれた。
しかし自分が字を読めないと知ると、嫌な顔をする事もなく読み書きを教えてくれた。
次第に兄が来る事を心待ちにするようになっていた。
時折「内緒だ」と、自分の手を引いて、密かに外に出してくれた事もある。

自分にとって、この男の存在が救いだった。


「最初は…様子を見に行っただけだよ。好奇心、とも言う」

景伊の言葉に、義成は当時の記憶を振り返る様に、ゆっくりと語る。

「見てみたかった。親父が連れ帰った子供が、どんな子か。離れに行ってみたら、丁寧に鍵まで掛けてあって。鍵を持って来て開けてみれば、中でお前が目をまん丸にしてこちらを見ていたな」

少し、義成が笑みを浮かべた。今日この家に来てから、初めて彼の和らいだ顔を見た気がした。

「話してみたら、お前は何か悪口言うわけでもない、何も知らない。親父の子だろうっていうのはすぐにわかったよ。顔が似てるから。…そう思ったら、罪悪感が沸いたんだ。母親は違うが兄弟だ。なのにこの子供は、こんなところで何もよく知らないまま、何するでもなく時間を消費して生きている」

このままではこの子供は駄目になると思った、と義成は言う。

景伊を離れに閉じ込めておく、と言いだしたのは母親だった。
何度か母とその事で口論したが、母は聞く耳を持たず「お前はあの子の肩を持つのか」と言われた。
そうまで言われると、自分も強くは言えなかった。
外に出す事はできない。
ならばこの子供が大人になって、もし家を出る事になったとき困らないよう、出来る限りの事を教えよう。
彼はそう思ったのだと言う。
当時若かった事もあり、堅苦しい家の事に反発を抱いていた時期もあった。
家に居辛いと思っていたのもある。
その反発から逆に景伊と親しくなっていった。

「最初は好奇心。あとは罪悪感。お前にいろいろ教えようと思ったのは、優越感からかもしれない。…そう言われても、否定はしないよ。でも俺は、お前の事が好きだった。妹の春江より可愛がっていたと思う。お前は賢いし、聞きわけも良かった。 こんな状況でも、十分理解してくれていると思っていた」

だから、「弟」が家族の遺体を弄んでいるのを見た時、何かが切れた。
裏切られた。
あんなに良くしてやったのに。
そう思う事自体が、弟を普段から下に見ていたのだと自覚させた。


「俺など、その程度の男だ」

義成の告白に、景伊は視線を落とす。
「…それでも俺は、貴方に感謝しています」
「お前は人が良過ぎる」
景伊は、首を横に振った。

景伊にとって、兄の存在は全てだった。
例え周りがいかに自分を嫌っていても、兄だけは理解してくれている。
その安心感があったからこれまでやってこれた。
だからあの事件があったとき「お前以外の誰がやるのだ」と責められたとき、何かが崩れた。

ああ。
この人もやっぱり、俺の事が嫌いだったのだ。


穏やかなふりをして。
優しいふりをして。
自分は、やっぱり誰からも必要とされてない。愛されていない。
…最初からいなければ良かったのだ、自分なんて。



痛みと出血で暗くなり始めた意識の中で思った。
(この人に殺されるなら、それでいい)
(それが一番いい。もう、終わりたい)

そう思ったときだった。
何かが、自分の中に入って来ようとする気配があった。

ざわざわとした、言語として理解できない声。

男とも女ともつかない声だったのを覚えている。

何の事かわからないまま、景伊はそこで意識を失った。
あの雪の日の事だ。
あの体でどう彷徨ったのか、気がつけば自分は利秋の屋敷に居て、定信に治療を受けていた。

あのまま意識もなく屋敷を出ていたのは、「アレ」が自分の体を奪おうとしたからだろうか。
今となってはわからない。夢だったのかもしれない。
「アレ」に自分は助けられてしまったのだろうか。
この人の家族を殺した、アレに。
自分たちを壊した、アレに。


「俺は、貴方を恨んでなんかいません」

定信に病的、盲目的だと言われようが、構わない。
兄の存在は自分の中で絶対だった。

そう兄に告げたかった。
兄がわかってくれようがくれなかろうが、それだけはどうしても伝えたかった。


義成は、景伊の「恨んでいない」という言葉に、何も言葉を返してこなかった。

自分がどれだけそう伝えようが、義成が今、一歩下がって自分を見ている事はわかっていた。
自分がどれだけ歩み寄ろうが、兄の方が自分から離れていく。
まるで塞がらないグロテスクな傷口を見る様な目で、自分を見ている。
…そう感じていた。

「…お前は、どうしたい?」

それまで黙って景伊を見ていた義成が、少し遠い目をして問う。

「ここに帰ると言うなら、それも構わない。お前にはもうあの狭い離れに居ろとは言わない。周りがどう言おうと知った事ではない。お前はこの家の子で、俺の弟だ。侮辱は許さん」

義成のはっきりと言い切る言葉に、景伊は震えた。

「だが、お前がどうしたいのか聞きたい。このまま各務殿のところへ留まるか。ここへ帰るのか。
あの家ならば、お前に良くしてくれるだろう。お前をこのまま預かってもいいと言われている。…お前が選んでいいんだ。どうしたいのか、どう生きていくのか、自由に」

その言葉に、景伊は呆然とする。
自分には選択肢すらなかった。
ただ、大人に引きずられるがまま、その行き先も知らずに生きていた気がする。

選んでいい。

景伊はじっと、兄を見つめた。
義成もこちらを見つめている。

景伊が答えを出せたのは、それからしばらく後だった。



その日の夕方。
玄関付近でした物音に、定信は勢いよく振りかえった。
景伊がいる。…帰って来た、その安堵で定信は安心のため息をついた。
「おかえり」
その言葉に、景伊が意外そうな顔をしてこちらを見ている。
黒い瞳を見開いて。
「…どうした?なんかあいつに言われたか?」
「いや、そういうのじゃないんだ。…ただいま」

おかえり、などと言われたのが初めてだったから、とは言えなかった。
選択するまでもなく、自分の居場所は既にここにあったのかもしれない。
自分を送り出し、迎えてくれる家族のような人達が。


景伊は利秋と定信の元へ残る、という選択をした。
兄の元へ戻りたいと思わなかったわけではない。
ただ今、兄が自分を見る目は辛そうで、兄にそんな思いをさせるくらいなら、あの家にはやはりいない方がいいと思った。
でも話せないわけではないし、あの家に行けないわけではない。

『何かあればいつでもおいで。俺に出来る事であれば、何だって力になる』

兄は別れ際、自分にそう言った。
『…お前に償う方法が、見つからない』
疲れ切った、少し悲しそうな顔だった。
景伊は首を横に振る。
償いをしてほしいわけじゃない。
でも兄は、己を責め続けるのだろう。

元のようには戻れない。
会って話して、それがわかった。

『…もっと、いろんな所に連れて行ってやればよかったな』

それは義成の、後悔から出た言葉だったのだろうか。
景伊にはまるで別れの挨拶のように聞こえた。


「よーう、帰ったかい」
奥から利秋が顔を覗かせる。
それに答えながら、景伊は思う。

この優しい、変わり者の男達と、最初に自分を導いてくれた兄。
自分は彼らに手を引かれて歩くばかりだった。
無知で、何もできず、誰かに依存しなければ自分を保つ事もできない。
弱過ぎる存在。

だが今、自分は今日、初めて「こうしたい」と道を選んだ。
それは最初からそうするしかなかったものなのかもしれない。でもそれは、今までの自分にはできなかった事だ。
…自分は兄に憧れていた。
彼の様な強い男になれるのか、自分なんかがなれるのか。それはわからない。

でも、そんな彼らの力に成りえるだけの人間になりたいと、強く思った。

町に住む鬼(終)