HOMEHOME CLAPCLAP

夏の光、俺の血筋

05 スポーツ漫画の主人公


 近所にある運動公園は、昔健一郎もよく来た場所だった。
 河川横の土手に広がるこの場所は、広い運動場やテニスコート、遊具があり、今も親子連れや部活帰りの少年たちがサッカーボールを蹴っていた。その少々のんびりとした穏やかな空気は、子供の頃と少しも変わっていない。
 あの後、兄は自分を逃してくれなかった。
 夕暮れ時、野球好き二人のコミュニケーション──キャッチボールについては来たが、参加する気にはとてもなれなくて、健一郎は一人土手にあるコンクリート製の階段に腰かけて、公園と、その向こうに広がる川の流れを見ていた。大きな河川だ。対岸まで、百メートルはあるかもしれない。下流となるこの場所では、川の水深は浅く、流れもゆっくりだった。夕日を反射する川の照り返しが、目を直撃する。眩しさに顔をしかめながら、離れたところにいる園田と兄の姿に視線を移した。
 テレビで昔見た、憧れの選手──そんな男と実際にボールを握って交流できる事を、園田は楽しんでいるようだった。だが喜びよりも緊張の方が勝っていたようで、兄の「固くなりすぎ」という半笑いの声が、先ほどから何度も聞こえてくる。
(それにしても、綺麗なフォームで投げる奴)
 健一郎は顎の下に手を当てて、緊張した面持ちで硬球を投げる園田を眺めた。
 今初めて、この男が左利きだったという事も知った。流れるようなフォームで放たれた硬球は、伸びて気持ちの良い音を立て、兄のミットの中に吸い込まれる。その繰り返しを、ずっとぼんやり見つめていた。
 ここに来る道中、兄と園田が話すのを、健一郎は一人黙って聞いていた。
 園田が野球を始めたのは、小学校高学年のとき。友達に誘われたのがきっかけだという。地元中学の野球部はそれなりの強豪校で、全国大会を準優勝で終えた事があった。その頃から、いくつかの高校から「うちに来ないか」と声をかけられるようになったのだという。
 ただあまり裕福な家庭ではなかったようで、当初は野球の為に遠い私立高校に行く事を迷ったらしいのだが、母親が「後悔しないようにやるべきだ」と、背を押してくれたのだと言った。
「無理して俺を出してくれたのは知っています。だから、母まで悪く言われたとき、どうしても我慢ができなかったんです」
 園田は気恥ずかしそうに、そして気まずそうに兄に経緯を話していた。それを後ろから眺めながら、健一郎は感心しつつも、己との違いを噛みしめていた。
(才能あって、そこそこカッコよくて、体格に恵まれて、その上なんか親思いのいい奴とか、ケチつけるところないじゃん)
 別にケチをつけたいわけではないのだが──そう心の中で無意識に呟いた自分が醜すぎて、一人悲しくなった。
 自分でも、園田をひがむのは筋違いだ、とわかっていた。しかし「あぁそうなんだ凄いね」と心の底から言えるほど、自分は器の大きな男ではないのだ。
(漫画の主人公みたいな奴だね)
 そう、気付かれないようにため息をついたときだ。
「お前はやらんのか」
 兄がこちらに声をかけながら、階段を上がって来た。
「やりませんけど?」
「お前も強情だなぁ」
 膝を抱えながらそっぽを向くと、兄は呆れたように言って、すれ違いざまにグローブを健一郎の膝の上に置いた。
「飲み物でも買ってきてやるよ。気が向いたら、園田君に付き合ってやれば?」
「……人の汗臭いグローブで?」
「いい香りのするグローブなんか、この世にあるものか」
 兄はそう苦笑しながら、階段を上がって行った。
 この先を少し行けば、ジュースの自動販売機がある。安いのだが、何故かマイナーなメーカーの飲料ばかり取りそろえている、少し怪しい自動販売機だ。
 多分兄はそこに行くつもりなのだろう。この近くには、そこしか自動販売機がないのだ。
 階段を上りきり、道路を歩いて行く兄の背を見送っていると、誰かが下から階段を上がってくる気配があった。誰とは気付いていたが、あえてそちらは向かなかった。
「……お前、すげぇ上手かったんだな。さすが背番号一番かっさらうだけはある」
そう少し皮肉に言ってやると、その気配は健一郎の目の前で止まった。視線をそちらに移すと、暑さに少しだけ汗を滲ませた園田が、じっとこちらを見つめていた。今は制服姿から、上はTシャツ下はジャージに着替えている。同年代とは思えない、大学生のような落ち着きが彼にはあった。
「こんなの貰ったけど、俺は投げないから」
「別にそれはいい。……なんか、悪かったと思って」
「え?」
 何が、と顔を上げると、園田は少しだけ、困ったような表情を浮かべていた。
「俺一人浮かれて、知らな
かったとはいえお前の事気遣えてなかったな、と」
「あぁ……」  兄が無神経にも言い放ってくれた、健一郎が怪我をして野球を止めた、という事だろう。
「別にいいよ。むしろ俺がついて来て悪かった。気を散らせただろ」
 気楽に笑いながら言ってやったが、園田はまた困った顔をしてしまった。その表情は、不機嫌な柴犬のようでもあって、少し可愛らしいとも思ってしまった。
「隣、座ってもいいですか」
「あ? ……どうぞ」
   敬語で遠慮がちに言われ、健一郎もおずおずと尻を階段の端に寄せる。園田は隣にやってきて、腰をすとんと下ろした。
 微妙な、気まずい空気が流れる。今日出会ったばかりで、まだ友人とは言い難い。互いに積極的に喋るタイプでもなかったから、二人でいるときは沈黙の方が多い気がした。
「……どうよ、兄貴と投げてみて」
 精悍な顔立ちの、園田の横顔にちらりと見ながら言う。園田は小さく頷いた。
「凄くいい音出してくれた。気持ちよく投げさせてくれる人だね」
「まぁ、本職だし?」
 球を的確に取り、的確に投げるのが捕手の仕事。ピッチャーの女房役として相手と意思疎通を行いながら、気持ちよく投げさせるのも、大事な仕事だ。 こちらがそう笑いながら言えば、園田も少しだけ笑った。その顔に何となく遠慮のようなものが見える。きっとまだ、こちらを気遣っているのだろう。
「別にお前が気にする話じゃないから、あれ」
 健一郎は手で後ろに体重をかけながら、日の落ちつつある空を見上げる。
「思う存分、野球の話は兄貴としてもらっていいよ。俺は、お前みたいに才能あふれまくりってタイプじゃなかったし。ただ下手くそな奴が加減もわからずやって故障して、痛いの嫌だからやめただけ。別に悲しい話でもなんでもない」
「……どこ痛めた?」
「肩」
 健一郎は己の右肩に触れる。園田は何も言わなかった。肩の故障は、一度深刻になると治りにくい。それはピッチャーを長年やっている園田にもわかるだろう。
「俺もお前と同じさ。兄貴に憧れたくちでさ。……兄貴が昔から上手で楽しそうにやっていたから俺もやりたくなって、野球始めた。小学校のときかな。確か三、四年くらいのとき」
 沈黙が嫌で、健一郎は苦笑しながら言った。いつもより多弁になっている自分には、気付いていた。
「でも俺は下手でね。兄貴がキャッチャーだから、俺はピッチャーになりたかった。同じチームで投げる夢を見たりしてね。でも、兄貴とよく比べられたよ。お前下手だなって。まぁ悔しいよね。だから必死に練習したんだよ」
 スポーツ漫画の主人公だって、最初は下手な事が多い。
 だが努力を惜しまない。必死に練習して上手くなる。壁や怪我を仲間と乗り越えて──そういう話が多い。
 だから自分も、練習すればそうなれるかもと、思っていた。
 我ながら、ひどく単純だったと思う。
「でも、体できてない奴が無理するべきじゃないよな。すぐ肩痛くなってね。でも当時の指導者が、古臭い体育会系体質のやつでさ。怠けているとか、練習が足りないんだとか、そんな事ばっかり言うわけ。子供は大人を信じるしかないじゃん。で、どんどん悪化して──親に病院連れて行かれた時には、肩が痛くて上がらなくてさ」
 病院に行ったとき、父は「何でもっと早く言わなかったのか」と叱った。
 だが健一郎は何も言えなかった。あの頃、怪我をしたらなぜか怒られると思っていた。小学生だった自分には、両親の叱責というものは無条件で避けたいものだったのだ。怪我をした自分が悪いのだ、という気分にもなっていた。
「で、結局野球肩ってやつ? 医者にはしばらく野球は止めた方が良いって言われた。なんか酷くなってたらしくて、これ以上続けたら、下手したら手術だし、一生痛いかもって言われて」
 だから止めた、と健一郎は極力軽く聞こえるような口調で言った。
 別に、当時の指導者に恨みもない。こちらの気持ちも知らずに怒った父の事も、別に恨んでいない。
 元々、どれだけ練習しようがあまり上手くはならなかったし、漫画のようにはならないのだなと、子供心に思っただけだ。
 しかし、何故自分だけ、という悔しさもあった。もっと練習しているはずの兄が全く故障しないのに、同い年の周りも全然大丈夫なのに、自分だけ早々に壊れて──そう思うと虚しくなって、心が完全に折れてしまった。あれほど熱心にやっていたはずの野球は、ぱったりとやらなくなった。
 それからというもの、健一郎は特に打ち込めるものも持てないまま、今に至っている。
 野球を止めて数年、痛みは落ち着いたし、病院に何度も通って肩は上がるようになった。キャッチボール程度なら、今はできる。だがもう、正直やりたくなかったし、あれほど兄のようになりたいと熱心に保ち続けていた情熱も、どこかに消えていた。
 父との関係が目立ってこじれ始めたのも、その頃からだ。
 無気力な自分を、父はよく叱った。だが叱られても、どうしたらやる気を取り戻せるのかなんて、健一郎にもわからなかったのだ。
 そのうち、父は小言を言うことも止めた。
 きっと言っても聞かない、出来の悪い自分に、もう愛想を尽かしたのだろうと思った。
「お前みたいな奴が弟だったら、兄貴も親父も嬉しかっただろうけどね」
 兄の事は、未だに好きだし、自慢だ。尊敬していると言ってもいい。だが素直に思慕だけがあったわけではなく、多少は僻みや身勝手な嫉妬もあった。そんな感情があるのに、困った事があるとすぐ兄にすがる。
 情けないとは、自分でも思っている。
「……俺はお前が、羨ましいね」
 健一郎は小声で呟いた。
 園田の姿は、まさしく自分が幼い頃に憧れ思い描いた姿、そのものだ。
 今は少々低迷しているとはいえ、全国的な野球部のエースピッチャー。背番号一番、兄と楽しげに投げ合う姿──愛読していた、スポーツ漫画の主人公のようだ。
 自分がなりたかったものが、こうして目の前にいる。そんな男と、これから一つ屋根の下ですごしていかねばならないのだ。それが苦痛だ──と思う自分は、我ながら心が狭い。  
 そう苦笑していると、園田もぽつりと呟いた。
「……俺だって、言うのであればお前が羨ましいよ」
「え?」
「お前は俺にないもの、いっぱい持っているよ。家族は明るい。家も綺麗だ。ああいうお兄さんもいる。恥ずかしくない親がいる。そのせいで恥ずかしい思いも、悔しい思いをしなくていい」
「……」
 そう語る園田の横顔は、険しかった。握る拳には、力が入っているように見えた。
 今回の騒動の原因でもある、園田の父の事──健一郎も詳しくは知らないが、園田は心から実父を軽蔑し、憎んでいるようでもあった。だがぽつりと吐くには重い言葉で、返す言葉に困る台詞だ。
(そんな事言われたら、俺なにも言えないじゃないか)
 健一郎は、唇を噛んだ。自分が酷く甘えた事を言っている気分になってきた。確かに園田のような思いをした事はない。彼の痛みは、正直想像してやる事ができなかった。
「悪い。別に責めてるわけじゃないんだよ」
 健一郎が黙った事を、自分の発言のせいで気を悪くしたのだと思ったのだろうか。園田はそう謝って、言葉を続けた。
「でも、好きだった事をやめなきゃならないって、上手いも下手も関係ないと思う。辛いと思うよ。長い事腐るのも無理はないと思う。俺もたまに、寝る前に考えるから。俺、野球できなくなったらどうなるんだろうって」
 園田は手の中の薄汚れた硬球を、じっと眺めていた。
「そのとき俺は、ちゃんとまともでいられるんだろうか。親父みたいに、周りに迷惑をかける人間にならないだろうか。そればっかり考えて、怖い時がある」
「……お前、俺から見たらすげぇ真面目なやつに見えるけどね」
「どうかな。多分そんなふりをしているだけで、根っこは違うのかも。あそこまで自分が、人を殴れる人間だとは思っていなかったから」
「ふぅん……」
 この物静かな男が、長年嫌がらせを続けた上級生を激高し殴り飛ばしたという姿は、未だにうまく想像することができない。
「……それ、やってどうだった? 模範的な解答は抜きで。本音で」
「模範?」
「悪い事しちゃったとか、周りに迷惑かけたとか、そういうの抜きでさ。糞みたいな先輩ぶん殴ってみて、お前どう思ったのかなって。やった事はやった事として、後悔してるの? それともすっきりした?」
「……」
 園田は考える様に、小さく唸った。
「……そのときはすっきりしたし、正直今も殴った事は後悔していないよね。退部ざまぁって思ってる」
 正直な発言に、健一郎は噴出すように笑った。
「じゃあいいだろ。何かそういう発言聞いて、安心した」
「何で」
 にやにやと笑いながら言えば、園田は目を丸くしていた。
「だってお前、できたやつ過ぎるなーと思って。何考えてんのか、さっぱりわからなかったから」
「そう?」
 園田は気だるげに、こちらを見る。
「まぁ正直ついでに言うと、俺は今回お前の下宿話、最初はあんまり歓迎してなかった」
「だろうなと思ってた」
 園田は淡々とした声で返事をした。
 近くの草むらから、虫の音が聞こえる。川べりの涼しい風が心地よい。どことなく感傷的な空気になってしまっていて、互いにぼそぼそと本音を語り合う。
「でも親父の頼みだし、一つ屋根の下で気まずい関係って方が余計ややこしいと思うんで、ある程度話せるようになっといた方が妥当だろうし、多分仲良くしないと親とか兄貴がうるさいだろうし、とりあえず話さなきゃなーって思ってた」
「凄くぶっちゃけるな、お前」
「うん……」
 園田が呆れた顔でこちらを見ていた。自分でも、そう思う。
「まぁ俺は、こういうクズですよ。最初に言っておく」
「真のクズって言うのは、もうちょっとどうしようもないものだよ。お前はまだ正直なだけ、まだ可愛げがある」
「……同い年に可愛げ云々言われても、全然嬉しくないけどね」
 健一郎は眉を寄せた。やはりこの男は、年上のような物言いをする。
「悪い」
 互いの卑屈さがなんだかおかしくなってきて、どちらともなく笑えてきた。何だか不思議な気分だった。同い年とここまで真面目に話しこんだのが、久しぶりの事だからだろうか。
 園田もきっと、あきらかな「爽やか」「快活」というタイプでもないのだ。落ち着きというより、健一郎と似た卑屈さ、根っこの部分の暗さを持っている。同じスポーツマンの彗とは全く違う種類の男なのだ。だから、身勝手な嫉妬は持ちつつも、こうしてリラックスして話す事ができるのだろうと思う。
「じゃあこの際もう一つ正直に言っておくよ。……情けない話を聞いてくれてありがとな。あんな事喋ったの、何年振りかわかんないよ」
 健一郎が野球をやっていたという事は、今の友人達は知らないだろう。例え知っていたとしても、怪我が原因でやめたという事は知らないだろう。
 あれから、当時の野球仲間とは疎遠になっている。楽しげにやっている彼らを見るのが苦痛だったから、自分から距離を置いたのだが──当時の悔しさも燃えカスも、自分の中からはまだ完全に消え去っていないのだと、今日知った。
 辛いだとか、落ち込んでいるだなんて人には思われたくなかった。だから自虐的に語ったのに、この男は茶化しもしなかったし、励ましてもこなかったし、妙な持論を展開したりもしなかった。
 それが、有難かった。
「……別に。他人事じゃないし。明日は我が身」
 だが園田は、そうそっけなく言い放つだけだった。自分の中で、らしくもなく何かが熱くなり始めていたのに、あまりのそっけなさに笑いが込み上げてきた。園田はけたけたと笑うこちらを、不思議そうに眉を寄せながら見ている。
 しかし、笑いながら思う。
 園田の言う「真のクズ」とは、彼の父の事だろう、とは健一郎にもわかった。
 借金をつくったり、家に長期間帰って来なかったり──そんな男と、友人であったという、健一郎の父。
 堅物で昔気質な父は、そういったタイプを一番嫌うはずだ。そんな男と親しくしている父というのが、全く想像できないのだ。
 ──あいつに、悪い事をしてしまった事があって。
 今回の下宿話の経緯を説明してくれたとき、父はそんな事を気まずげに語っていた。
 園田が言うには、彼の父はもう故人だという。健一郎の父が、それを知らないはずがない。
 亡き友人の子に、救いの手を差し伸べる──それだけ聞けば美談のようでもあるが、今回の事は、まるで父の罪滅ぼしのようにも思えてきた。
「……どうした。多少は仲良くなったか?」
 そのとき、頭上から声がした。顔を上げると、兄が能天気な顔で、スポーツドリンクのペットボトルを三本買って戻っていた。相変わらず、見た事がないパッケージの飲料だ。
「……兄貴はさ」
 それを受け取りながら、健一郎は問いかける。
「親父の学生時代の話とか、聞いた事ある?」
「親父の?」
 目を丸くした兄は、考える様に視線を宙に漂わせる。
「……知らん。あまりそういうのを喋らんからな、あの人は」
 兄も、そのあたりの事は聞いた事がないらしい。
「気になるなら、話してみればいいじゃないか」
「嫌だよ。兄貴ちょっと聞いてみてよ」
「そういうのは自分でやれ。──さて、ぼちぼち帰ろうか、園田君」
「はい」
 兄の愛想の良い言葉に、園田も素直に頷いて立ち上がる。園田はすっかり、兄に懐いたらしい。
「お前も帰るぞ。どうよ、久々に日を浴びて」
「……」
 健一郎は黙った。ここに連れて来られて、兄に内心「なんて無神経なんだこの脳筋は」と腹を立てていたが、どうやら夏休みも遊ばず、家にこもりがちな自分を外に連れ出してみたかったらしい。
「……たまには、いいかなと思いました」
 少し考えて、そう呟く。
「小学生みたいな感想だな」
「うるさいなー」
 呆れる兄に噛みつくように言い返す。兄弟でじゃれるように言い合っていると、園田がおかしそうに笑いをこらえているのが見えた。
「お前も笑わないでくれない?」
「いや、悪い」
 だがそう言う園田はまだ苦笑していた。彼の顔からも、最初に見たような緊張や強張りといったものは薄くなりつつある。
(こいつも、やり直すためにうちに来たようなものなんだよな)
 いろいろと家庭事情は複雑そうで、立場も複雑。自分のように、言えない思いというのを抱えて生きているのかもしれない。
「……さっき言ったのは、もう終わった話だからな」
「ん?」
 園田を睨むように見ると、彼はわずかに首を傾げた。
「迷惑とかはもう思ってないから。そこは勘違いされると困る」
 そう言葉に困りながら言うと、園田は首を傾げた表情のまま、曖昧に頷いて見せた。